もうすぐ夏の気配が近づいてくると、スーパーの棚に「土用の丑の日」のポスターが並び始める。でも、ちょっと待ってほしい。うなぎの「旬」って、実は夏じゃないって知っていただろうか?
「え、じゃあなんで夏にうなぎ食べるの?」——その疑問を解く鍵は、250年前の天才発明家が仕掛けたある”作戦”にある。5月22日は「うなぎの未来を考える日」。今回はうなぎにまつわる驚きの話をたっぷり掘り下げてみよう。

5月22日は「うなぎの未来を考える日」
2009年5月22日、東京大学海洋研究所(現・大気海洋研究所)と水産総合研究センターなどのチームが、世界で初めて天然のニホンウナギの卵の採卵に成功した。この歴史的な出来事を記念して設けられたのが「うなぎの未来を考える日」だ。
「採卵に成功」——これがなぜそんなに大ニュースなのか、ピンとこない人もいるかもしれない。実はうなぎというのは、卵を持つ成魚が自然界でほとんど見つからない、謎に包まれた生き物だった。スーパーで売っている「養殖うなぎ」ですら、川や海で捕まえてきた天然の稚魚(シラスウナギ)を育てる方法で作られている。卵から人工的に孵化させる「完全養殖」は長年の夢であり、今もなお難しい課題のひとつだ。
この日は、そんなうなぎの未来を守るために研究を続ける人々へのエールでもあり、私たちが「うなぎとどう向き合うか」を考える日でもある。

実はうなぎの旬は「夏」ではない
天然うなぎの本当の旬は秋から冬(10〜12月頃)だ。この時期のうなぎは冬を越すために体に脂をたっぷりと蓄え、身がふっくら濃厚になる。食べてみると違いは一目瞭然で、秋冬のうなぎは「天然もの」らしい風味と脂の甘みが全然違う。
一方、夏のうなぎは? 実は暑さで動き回って脂が落ちやすく、昔の人には「夏のうなぎは体に負担がかかる」と敬遠されることさえあったくらいだ。夏に売れない食材の代表格だったのだ。
それなのに今や「夏といえばうなぎ」という文化が日本全国に根付いている。その理由を知るには、江戸時代の天才・平賀源内の話を避けて通れない。

「土用の丑の日」は江戸時代の宣伝戦略だった
江戸時代中期のある夏、うなぎ屋の店主が頭を抱えていた。「夏はうなぎが売れない。どうしたらいいか」と、当時「何でも知っている天才」として有名だった平賀源内に相談したという。
源内が出したアイデアは、じつにシンプルなものだった。
「本日、土用の丑の日」という看板を店先に貼り出せ、というものだ。
「丑の日」とは昔の十二支の暦に由来する言葉で、この日は「う」の字がつく食べ物を食べると夏バテしないという言い伝えがあった。そこで源内はうなぎ(「う」のつく食べ物)を結びつけ、「夏に食べると元気になる」という物語を作り上げたのだ。
看板ひとつで大繁盛したうなぎ屋を見た他の店も次々と真似をした。こうして「夏に土用の丑の日があり、うなぎを食べる」という文化が、江戸から全国へと広まっていった。
要するに「土用の丑の日にうなぎ」は、江戸時代のコピーライターが作った宣伝キャンペーンが起源だったわけだ。現代で言えば、一本のキャッチコピーが新しいフードトレンドを生み出したようなもの。平賀源内のマーケティング能力、恐るべし。
なお、この平賀源内説は江戸時代の文献にそれとわかる確実な記録が残っていないという指摘もある。確認が難しい部分もあるが、「夏にうなぎを売りたい誰かが知恵を絞った」という本質は変わらないだろう。

ニホンウナギの驚きの生態と絶滅の危機
うなぎの生態も、実はとんでもなくドラマチックだ。
ニホンウナギは生まれてから数年〜十数年にわたって川や湖でじっくりと成長する。そして産卵の時期が来ると、突如として海へと下り始める。行き先はなんとマリアナ諸島付近の深海。日本からおよそ2,000〜3,000kmも離れた場所だ。
産卵を終えた親は力尽きて死んでしまう。卵から孵化した稚魚たちは、今度は黒潮などの海流に乗って日本へと向かう。まるで「川から生まれ、海の果てで命をつなぎ、また新たな命が川へ帰る」という壮大なドラマのような一生だ。
ところが、このサイクルが今、崩れかけている。
稚魚「シラスウナギ」の漁獲量が激減しているのだ。1970年代には年間約200トンも捕れていたシラスウナギが、近年は年によって数トン台にまで落ちることもある。原因は複合的で、川のコンクリート護岸化による生息環境の悪化、過剰漁獲、さらには海水温の変化による海流のズレなどが重なっている。
2014年には国際自然保護連合(IUCN)がニホンウナギを「絶滅危惧種」に指定した。世界的にも「このまま放置すれば絶滅しかねない」と認定されたわけだ。

スーパーのうなぎが高くなった本当の理由
うなぎを買おうとしてレジに持っていくと、ちょっとびっくりする値段になっている。子どもの頃はもっと気軽に食べられた気がするのに……と感じる人も多いはずだ。
それもそのはず、ここ数十年でうなぎの取引価格は3倍以上に跳ね上がったとも言われている。稚魚が捕れなくなれば、養殖するための材料が足りなくなる。需要に供給が追いつかず、価格が上がる——当然の結果だ。
「国産うなぎ」や「完全養殖うなぎ」という言葉を見かけることが増えてきたのも、こうした背景がある。完全養殖うなぎは卵から育てるため天然稚魚に頼らなくて済むが、技術的な難しさやコストの高さから、まだ一般に広く流通するには至っていない。それでも研究は着実に進んでおり、将来的にうなぎが「またリーズナブルに食べられる日」が来ることを期待したい。

まとめ
5月22日の「うなぎの未来を考える日」をきっかけに振り返ると、うなぎにはこんな驚きが詰まっていた:
- うなぎの本来の旬は秋〜冬(夏は脂が少なく昔は不人気だった)
- 「土用の丑の日にうなぎ」は江戸時代の宣伝戦略が起源(平賀源内の知恵が由来とも)
- 産卵場所はマリアナ諸島付近の深海という壮大な旅をする生き物
- ニホンウナギは2014年に絶滅危惧種に指定され、今まさに危機にある
今年の夏、土用の丑の日にうなぎを食べるとき、ぜひこの話を誰かに話してみてほしい。きっと「へえ〜!」と言ってもらえるはずだ。そしてうなぎをひと口食べるたびに、マリアナの深海から旅してきた命のことを、少しだけ思い出してみてほしい。

命に感謝
※本記事は一般に公開された情報をもとに執筆しています。最新の情報や具体的な判断については、各事項の公式情報や専門家にご確認ください。


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