「ミツバチがいなくなると、食卓の3分の1が消える」——そんな話を聞いたことはないだろうか。
結論からいうと、ミツバチだけで食料の3分の1を作っているわけでも、その量が全部消えるわけでもない。しかし、ハチを含む花粉媒介者が、私たちの食卓の豊かさを大きく支えているのは本当だ。
5月20日は国連が定めた「世界ミツバチの日」。体長数ミリから数センチほどの小さな生き物と、果物・野菜・ナッツなどの意外に大きな関係を見てみよう。

世界ミツバチの日って何?
「世界ミツバチの日」は、2017年12月の国連総会で5月20日を記念日とすることが決まった、比較的新しい国際デーだ。
日付は、近代養蜂の先駆者として知られるスロベニア人アントン・ヤンシャが、1734年5月20日に生まれたことに由来する。養蜂文化が根づくスロベニアが国連へ提案し、実現した。
この日の目的は、蜂蜜を作るセイヨウミツバチだけを祝うことではない。野生のハナバチをはじめ、チョウ、ガ、ハエ、甲虫、鳥、コウモリなど、花粉を運ぶ多様な生き物の重要性と、その脅威に目を向けることにある。

「食料の3分の1」の本当の意味
国連食糧農業機関(FAO)とIPBESの資料によると、世界の主要な食用作物の4分の3以上が、収量や品質の面で、少なくとも一部は動物による花粉媒介の恩恵を受けている。
そして、花粉媒介に少なくとも一部依存する作物は、世界の作物生産量の約35%を占める。これが「食料の約3分の1」という話のもとになった数字だ。
ただし、35%すべてが花粉媒介者だけで生み出された量ではない。作物ごとに依存度は違い、花粉媒介者がいなくても一部を生産できるものもある。IPBESは、動物による花粉媒介へ直接帰属できる量を、現在の世界の作物生産量の5~8%と推計している。
つまり「食卓の3分の1が空になる」ではなく、果物・野菜・種・ナッツなどの収量や品質が落ち、食卓の種類と栄養が乏しくなると考えるほうが正確だ。米・小麦・トウモロコシなど、風や自家受粉を利用する主要穀物もある。

主役はミツバチだけではない
世界には2万種を超えるハチが知られており、その大多数は野生種だ。人が巣箱で飼うセイヨウミツバチは有名だが、花粉媒介は一種類のスターだけで行われているわけではない。
例えば、トマトなどでは花を振動させて花粉を飛ばすマルハナバチ類が力を発揮する。カカオの花では小さなハエの仲間が重要だ。作物や地域によって、得意な花粉媒介者は異なる。
IPBESも、飼育ミツバチが多い場所であっても、野生を含む多様な花粉媒介者がいるほうが、安定した花粉媒介につながると評価している。食卓を守っているのは「ミツバチ1種」ではなく、多くの生き物で構成されたチームなのだ。
「40%が絶滅危機」!?
IPBESによると、鳥やコウモリなど脊椎動物の花粉媒介者では、世界規模の評価で16.5%が絶滅危惧種とされる。一方、昆虫の花粉媒介者については、世界全体を網羅したレッドリスト評価がまだない。
地域や国の評価では、ハチやチョウの一部で高い危機レベルが確認され、国によってはハチ類の40%以上が脅かされている例もある。40%は全世界基準ではないが、地域評価で見られる深刻な数字なのである。
主な要因として、土地利用の変化、単一作物に偏った農業、花や巣場所の減少、農薬、外来種、病害虫、気候変動などが挙げられる。どれか一つだけではなく、複数の圧力が重なっている。

蜂蜜の数字を正しく見ると、もっと驚く
米国農務省の資料では、ミツバチの群れが約200万輪の花を訪れて、1ポンド(約454g)の蜂蜜を作ると紹介されている。
花によって蜜の量や糖度は違い、天候や蜂の移動距離も変わるため、どんな蜂蜜にも使える厳密な換算式ではない。それでも、途方もない回数であることは伝わる。
さらに、働きバチ1匹が一生で作る蜂蜜は、平均してティースプーン約12分の1とされる。小さじ1杯ではなく、その12分の1だ。一つの瓶は、何千匹もの働きバチが分担して作り上げた共同作品なのである。

身近なところで花粉媒介者を守るには
- 季節をずらして花を育てる:春から秋まで、違う時期に咲く植物を組み合わせると餌の空白を減らせる
- 農薬は表示どおり慎重に使う:開花中やハチが訪れている時間帯への散布を避け、必要以上に使わない
- 小さなすみかを残す:野生のハナバチには、土の中や枯れた茎、木の穴を巣に使う種類もいる

まとめ:食卓を支えるのは、小さな生き物のチーム
「ミツバチがいなくなると食卓の3分の1が消える」という表現は、少し大げさだが無視はできないということを知ってもらえただろうか。花粉媒介に一部依存する作物が世界の作物生産量の約35%を占め、ハチを含むさまざまな生き物が、その収量・品質・多様性を支えている。
世界ミツバチの日は、蜂蜜を作る一種類のハチだけでなく、名前も知られていない野生のハナバチや、チョウ、ハエ、甲虫、鳥、コウモリまで思い出す日だ。
食卓を豊かにしているのは、一匹のスターではなく、多様な生き物のチーム。花に小さな訪問者を見つけたら、その大仕事を少しだけ観察してみてはいかがだろうか。

参考資料
- 国連総会「World Bee Day」決議資料
- FAO「Global Action on Pollination Services」
- IPBES「Assessment Report on Pollinators, Pollination and Food Production」
- FAO「Bee-ing grateful to our pollinators」
- 米国農務省 Rural Cooperatives―蜂蜜生産の数字
- Mallinger et al.(2017)飼育バチが野生バチへ与える影響の系統的レビュー
※本記事は国連・FAO・IPBES・公的機関・査読論文の資料をもとに、数字が示す範囲を区別してまとめています。



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